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2008

 
 

 放射光連携研究機構生命科学部門(尾嶋正治機構長)の深井周也准教授のグループでは、大型放射光施設PF-ARのNW12Aビームラインを用いて得られた構造解析により、Lys63結合型ポリユビキチン鎖を選択的に切断するメカニズムを解明することに成功しました。


 細胞には、合成に失敗してしまったタンパク質や古くなって使えなくなってしまったタンパク質を分解し、タンパク質の原料であるアミノ酸やペプチドに戻してリサイクルするシステムが存在します。このシステムでは、分解されるタンパク質には正常なタンパク質と区別するためのラベルが貼られます。酵母からヒトにいたる真核生物の細胞内では、76個のアミノ酸がつながってできた小さなタンパク質であるユビキチンが、まさにそのラベルの役割を果たします。ユビキチンが鎖状に複数個付加されたタンパク質は、タンパク質分解を担う酵素複合体であるプロテアソームにより認識され分解されます。この「ユビキチンを介したタンパク質分解システム」の発見に対して2004年ノーベル化学賞が授与されています。

 タンパク質分解のシグナルとして有名なユビキチンですが、最近になって、細胞内の様々なプロセスで重要な役割を担っていることが明らかになってきました。複数個が連なったユビキチン(ポリユビキチン鎖)には、形状の異なるいくつかの種類が存在します。ポリユビキチン鎖は、ユビキチン分子のC末端のグリシン残基と別のユビキチン分子のリジン残基がイソペプチド結合を形成することによって合成されますが、ユビキチン分子には7つのリジン残基があるため、どのリジン残基を介して結合するかによって形も機能も異なってくるのです。実は、タンパク質分解のシグナルとして働くポリユビキチン鎖のほとんどは48番目のリジン残基(Lys48)を介して結合したものです(図1)。

 Lys48結合型以外のポリユビキチン鎖については、完全にその役割が理解されているわけではありません。しかし、Lys63結合型のポリユビキチン鎖は、Lys48結合型とは明確に区別され、DNAの修復、タンパク質合成、免疫や炎症に関わる細胞内シグナル伝達、受容体の分解などのプロセスで働くことが知られています(図1)。ところが、細胞の中で明確に区別されているはずの形状の異なるポリユビキチン鎖が、実際に細胞内のタンパク質によってどのように認識されているのか、これまで全くわかっていませんでした。本研究グループは、Lys63結合型ポリユビキチン鎖だけを選択的に切断する酵素であるAMSHファミリーに着目し、AMSH-LP単体およびAMSH-LPとLys63結合型ユビキチン二量体との複合体の結晶構造を決定することにより、Lys63結合型のポリユビキチン鎖を認識して選択的に切断するメカニズムを解明しました(図2)。特定のポリユビキチン鎖の認識と選択的切断メカニズムを明らかにした世界で最初の成果です。

 本研究成果は、英科学雑誌「Nature」にオンラインで8月31日(日本時間9月1日)に発表されました。


Yusuke Sato, Azusa Yoshikawa, Atsushi Yamagata, Hisatoshi Mimura, Masami Yamashita, Kayoko Ookata, Osamu Nureki, Kazuhiro Iwai, Masayuki Komada and Shuya Fukai : Structural basis for specific cleavage of Lys 63-linked polyubiquitin chains. Nature, doi:10.1038/nature07254 (2008).


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Lys63結合型ポリユビキチン鎖の選択的切断メカニズムの解明」

– 世界で初めてポリユビキチン鎖識別のメカニズムが明らかに –