好き・嫌いの情動生成

「好き」という情動は、人工的に作り出せるのか?


私たちは毎日の生活の中で、友人に対して様々な感情を抱きながら生きています。誰々が好き、誰々が嫌い。さらに、一口に「好き」と言っても、人間としての「好き」と、異性としての「好き」に分けることもできるでしょう。多様な情動が渦巻くなかで、複雑な社会が形成されているのです。それでは、脳のなかでどのような情報処理が行われ、「好き」や「嫌い」という情動が生まれるのでしょうか?

ある特定の相手に対して好き・嫌いという気持ちを抱くためには、その相手についての記憶(= 社会性記憶)に情動の情報を付与する必要があります。私たちの研究グループでは、海馬の腹側CA1領域に社会性記憶が貯蔵されていることを発見し、光遺伝学的な手法を用いて、ある特定の個体の記憶だけを強制的に思い出させることに成功しました。

更に、その強制的な記憶想起の最中に、電気ショックによる恐怖刺激、あるいは、コカイン注入による快楽刺激を与えると、活性化された社会性記憶と負、あるいは、正の感情情報が人工的に連合され(メモリー・インセプション)、テスト個体はその相手に対して特異的に、忌避行動や接近行動を示すようになりました。つまり、人為的な刺激の組み合わせで、好きや嫌いの情動を生成できることが分かりました(Okuyama et al., Science, 2016)

しかしまだまだ多くの謎が残っています。このような友人に対して抱く感情は、日々の中で漠然と抱く喜怒哀楽と、どのような差異があるのでしょうか?また、なぜ、Aさんが好きという情動と、Bさんが嫌いという情動を混線させずに、僕らの脳は分けて情報処理することができるのでしょうか?好き・嫌いの情動を生成する神経メカニズムを解析することにより、喜怒哀楽を含めた様々な情動や、「恋愛感情」などの他者に対して抱く複雑な感情を、人為的に作り出すことを目指しています。