ダイオキシンによる女性ホルモン撹乱作用機構の解明

大竹史明、武山健一、松本高広、北川浩史、山本泰司、
野原恵子、遠山千春、Andree Krust、三村純正、
Pierre Chambon、柳澤純、藤井義明、
加藤茂明(核内情報研究分野)
Nature 423, 545-550 (2003)


 ダイオキシン類は発がん作用をはじめとした様々な毒性作用を持つ環境汚染物質であり、近年特に女性ホルモン・エストロゲン撹乱作用(「環境ホルモン作用」)が注目されています。エストロゲンの生理作用は女性ホルモン受容体(ERa,ERb)を介した標的遺伝子の転写制御により発揮されることが知られています。一方ダイオキシン類は「ダイオキシン受容体(AhR/Arnt)」に結合して同様に遺伝子の転写を制御する作用を持ち、エストロゲン受容体には結合しないので、どのようにしてエストロゲン作用を撹乱しているのか、そのメカニズムは不明でした。
 そこで私たちは、両者の受容体が転写因子であることに着目し、転写制御の段階でダイオキシンとエストロゲンのシグナルが相互作用している可能性を検討しました。
 細胞内・プロモーター上での転写因子の複合体形成・転写活性化能の測定さらにノックアウトマウスを用いた解析の結果、私たちが得たモデルは、「ダイオキシン(3MC)を結合して活性化したダイオキシン受容体が、エストロゲン(E2)を結合していない状態のエストロゲン受容体に直接結合することにより、不活性状態のエストロゲン受容体を活性化する」という分子機構でした(図1)(1)。正常状態ではエストロゲン受容体はエストロゲン結合時のみ活性化するのですが、ダイオキシン依存的なダイオキシン受容体との複合体形成が起こると、エストロゲン未結合状態のエストロゲン受容体が活性化してしまいます。このような受容体の「乗っ取り」が、化学的特性も標的受容体も異なるダイオキシンが正常なエストロゲンシグナル伝達を撹乱する作用の正体であると考えられます(2)。
 さらにマウスにおいて、ダイオキシン(3MC)はダイオキシン受容体およびエストロゲン受容体を介し、エストロゲン様の子宮細胞増殖を誘導しました。子宮内膜症などのエストロゲン依存的な疾患とダイオキシンとの関連が動物実験等で指摘されていることを考えると興味深い結果と言えます。
 本研究では、多岐に渡る化学物質の健康被害に対して分子生物学的方法論を導入することによって、標的となる分子機構の一つを明らかにしました。将来的な創薬や環境政策に必要な基礎的知見となると考えています。


1. Ohtake F., et al. Nature 423, 545-550 (2003)
2. Brosens J. and Parker M. Nature 423, 487-488 (2003)

Modulation of oestrogen receptor signalling by association with the activated dioxin receptor
F. Ohtake, K. Takeyama, T. Matsumoto, H. Kitagawa, Y. Yamamoto, K. Nohara, C. Thoyama,
A. Krust, J. Mimura, P. Chambon, J. Yanagisawa, Y. Fujii-Kuriyama, & S. Kato
Nature 423, 545-550 (2003)

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