泊幸秀教授が第33回井上学術賞を受賞

東京大学分子細胞生物学研究所 RNA機能研究分野 泊 幸秀 (とまりゆきひで)教授が、第33回井上学術賞(井上科学振興財団)を受賞することが決まりました(贈呈式は2017年2月3日)。本賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対し贈呈されています。

泊幸秀教授は1998年本学工学部化学生命工学科卒業、2003年本学工学系研究科化学生命工学専攻を修了(博士[工学])した後、米国マサチューセッツ州立大学医学部博士研究員を経て、2006年当所若手フロンティア研究プログラム講師に着任、2009年より准教授、2013年より教授を務めております。

研究題目 「RNAサイレンシング複合体の形成とその機能の解明」
授賞理由:
RNAサイレンシングは、small interfering RNA(siRNA)やmicroRNA (miRNA)などの小さなRNA分子を介して遺伝子発現を抑制する機構である。siRNAは標的RNAを切断するのに対して、miRNAは標的mRNAの翻訳を抑制する。最近、miRNAは発生、分化、代謝、がん化など、多様な生物学的過程に関わっていることが明らかになってきた。
泊幸秀氏は、RNAサイレンシングの詳細な分子機構に関して、優れた成果をあげている。siRNAやmiRNAは、RISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれるRNA-タンパク質複合体を形成して初めて機能を発揮する。RISCの中心となるのは、Argonaute(Ago)と呼ばれるタンパク質である。miRNAは、長い前駆体として転写されたあと、2段階の切断を受け、最終的に22塩基程度の長さの成熟体miRNAとなる。この途中で22塩基程度の長さのRNAがペアに成った2本鎖miRNAが生じるが、一方の鎖のみが選択的にRISCに取り込まれ、もう一方の鎖はRISCには取り込まれずに分解される。泊氏は、アガロースネイティブゲルを用いてRISCの形成過程を直接検出できるシステムを確立して、miRNAがRISCを形成する複雑な過程を詳細に解析した。その結果、2本鎖miRNAは、まず2本鎖のままAgoタンパク質に取り込まれること、その際にATPが必要であること、2本鎖miRNAにミスマッチが存在することによって、Agoタンパク質に効率よく取り込まれることなどを明らかにした。miRNA遺伝子内のミスマッチ配列は進化的に保存されていることは知られていたが、その機能的重要性を初めて生化学的に説明できるようにしたものである。同時に、この知見に基づいて人工的なmiRNA遺伝子の設計法を開発した。さらに、2015年にNature誌に発表された論文では、RISC形成に必須の因子を全て突き止め、試験管内での完全再構成に成功した。その他にも、miRNAによる標的遺伝子の翻訳抑制メカニズムや、生殖細胞においてゲノムをトランスポゾンから守るPIWI-interacting RNA (piRNA)と呼ばれる小分子RNAの成熟過程に必要なエクソヌクレアーゼTrimmerの同定は、RNAサイレンシングの分野において極めて重要な発見であり、高い評価を得ている。権威ある国際学会での招待講演を行う傍、国際RNA Societyの年会オーガナイザーを務めるなど、国際的なRNA研究コミュニティにおいて牽引役を果たしている。以上の理由により、井上学術賞にふさわしいものと判断された。